東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)138号 判決
一 本件出願についての特許庁における手続の経緯、発明の要旨および審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決の取消事由の存否について審究する。
1 (取消事由(二)(1)について)
成立につき争いのない甲第五号証(特許公報昭四〇―一六九九五号)(以下、引用例という。)によれば、引用例の「容積可変のシガレツト包装機械マガジン(別紙図面(二)参照(〔編註〕省略))」は、一本一本のシガレツトのごとき棒状品を適当数ごとに集め、これを包装する装置に関するものであることが認められ、一方、成立につき争いのない甲第二号証の一、二(手続補正書)(以下、たんに、明細書という。)によれば、本件特定発明の特許請求の範囲には、『物品、巻煙草及びその他を、セロフアンのごとき透明な箔状材料、箔その他を使用して自動的に包装する装置』であることが明確に記載されていることが認められ、しかも、本件特定発明の包装対象物を特定の形状の物品に限定すべきことが、右特許請求の範囲における他の構成要素からも認められないから、本件特定発明は、通常包装の対象となりうる物品一般を対象物とするものと解すべきことは明らかである。
たしかに、明細書中の発明の詳細な説明には「本発明は、物品を自動的に包装するための装置にかんし、さらに詳しくは、巻煙草のパツケージ(巻煙草一包み分を意味する。)およびそれに類似するもの」(明細書第一頁一〇行ないし一三行目)、「物品や巻煙草パツケージやその他のもの」(同第三頁一二行および一三行目)を包装する旨の記載があり、これらの記載と実施例の説明内容からみると、特許請求の範囲にある「巻煙草」とは、箱状物品である「巻煙草パツケージ」を指すものと理解できるから、「巻煙草」が「物品」と並列的に挙げられたか、例示として挙げられたかはともかくとして、本件特定発明が、包装対象物として、箱状物品を包含することは明らかである。
しかしながら、特許請求の範囲における記載文言上、前叙のとおり、本件特定発明が、通常包装の対象となりうる物品一般を対象物とするものと明確に理解できる以上、明細書中の詳細な説明の内容を根拠にして、原告主張のごとく本件特定発明において、包装すべき対象物を「箱状物品」のみに限定すべき理由はみいだせない。
そうすると、本件特定発明と引用例とは、ともに物品を適当量集め、これを包装材料を用いて被包するという装置に関するという点では、異るところがなく、包装すべき対象物の差異をもつて本件特定発明と引用例との相異点とみることはできない。
したがつて、この点における原告の主張は首肯できないものである。
2 (取消事由(二)(2)(3)について)
前掲甲第五号証によれば、引用例における制御装置は、棒状品の加工機械および包装機械の双方の作業能力の変化に応じて、両機械の中間にある物品受容、排出装置としてのマガジンの容積を変化させるとともに、その容積変化の程度に関連して物品加工機械または包装機械の作業速度を連続的に制御するほか、マガジンの内容積の大小が所定極限値に達すれば、これを感知して物品加工機械または包装機械を停止させる制御を電気的回路を用いて行うものであることが認められるから、引用例の制御は、比例的かつ連続的制御であつて、不連続なオン・オフ制御ではないとみるべきである。引用例においても、前記のように、連続比例制御の一環として、その極限値においては、オン・オフ制御が行われることが認められるが、これは、連続比例制御手段に内在した一場面における作用態様であつて、これをもつて独立のオン・オフ制御手段と理解することはできない。
ひるがえつて、本件特定発明における制御装置について検討するに、特許請求の範囲には「上記の夫々のチヤンネルを通しての装入の停止に関して上記の装置の作動条件をセツトするごとく、上記装置を制御するために、上記包装機械と上記装置とを連結する電気的に運転される制御装置」とあるだけで、当該制御装置が、不連続のオン・オフ制御に限られるかどうか明確に理解し難いが、これに対応する実施例中の制御装置に関する説明および図面を参酌すると、本件特定発明における制御装置は、原告の主張するとおり不連続のオン・オフ制御を意味するものと解される。即ち、本件特定発明は、包装機械内部に発生した緊急な異常事態を感知し、その信号に基づいて包装機械への送り出しの停止を制御する電気的制御装置を備えており、その第一段階として、包装機械と貯蔵装置(移送装置―移送チヤンネルーを含む。)とを継いで設けられた制御装置があり、さらに、第二段階として、貯蔵装置から包装機械への物品の送り出しが停止することによつて貯蔵装置内に包装対象物が所定量溜るとこれを感知して装入装置(装入チヤンネル)から貯蔵装置内への物品の装入を停止する制御装置があることが認められ、前掲の特許請求の範囲のうち「上記包装機械と上記装置とを連結する電気的に運転される制御装置」という条件から狭く解するときには前記第一段階の制御装置を指すものと理解される。また、「上記夫々のチヤンネルを通しての装入の停止に関して上記装置の作動条件をセツトするごとく」と規定しているところから広く解すると、前記第一段階および第二段階の制御装置の双方を包含するものと理解する余地もあるが、本件特定発明(第一クレーム)は、第二クレーム(本件発明の要旨(2)参照)との関係でみると、包装機械への装入の停止に関してクレームしたものと解するのが自然である(第二クレームは、さらに貯蔵装置への装入の停止に関するものを附加してクレームしたものと解しうる。)。
いずれにしても、本件特定発明の詳細な説明全体を検討しても、加工機械および包装機械の作業能力の連続的変化を制御する趣旨の説明は見当らないから、本件特定発明には、引用例の制御装置のごとき連続比例制御の手段は施されておらず、たんなる不連続のオン・オフ制御であることは明らかである。
したがつて、本件特定発明を構成する制御装置は、その構成、効果において引用例における制御装置と異るものというべきである。
ところで、すでに指摘したごとく、本件特定発明を構成する制御装置が、前記第一段階の制御手段のことなのか、あるいは、さらに、前記第二段階の制御装置をも含むものであるかについては、特許請求の範囲における記載のうえから必ずしも疑義なしとしないが、特許請求の範囲の記載文言上「上記装置を制御するために、上記包装機械と上記装置とを連結する電気的に運転される制御装置」とあるから、少くとも、貯蔵装置(移送装置を含むことは前記のとおり)の停止の作動条件を包装機械からの信号によつてセツトするための電気的に作動する制御装置が両者を結んで設けられていること(前記第一段階の制御装置。)は、本件特定発明の必須要件であることは、明らかである。
しかしながら、引用例には、包装機械の内部の支障に基づいて、マガジンからの移送を積極的に停止させるための電気的に運転する制御装置が施される旨の説明もしくは図示はなく本件特定発明における必須要件である前記第一段階の制御装置に相当するものは、引用例には見当らない。
この点、被告は、右の記載がないことを認めながらも、包装機械が故障した場合には、貯蔵装置からの送り出しを停止して貯蔵し、貯蔵が限度に達した場合には、貯蔵装置への送り込みを停止することは、自明の技術であり、かつ引用例には、シガレツト機械からコンベヤ(装入チヤンネルに相当)を通してのマガジンへの装入を停止するための制御装置が両者を連結して電気的に運転されているものがある以上、マガジンから重力移送系路を通して包装機械への装入の停止を電気的に制御するかいなかは、設計事項にすぎないとみられるから、本件特定発明における右の構成要件は、何ら新規な発明的技術思想を構成しないとして、本件特定発明と引用例に記載されたものとを同一とすることに誤りがないと主張する。
しかしながら、前叙のとおり本件特定発明においては、「上記装置を制御するために、上記包装機械と上記装置とを連結する電気的に運転される制御装置」が必須要件であり、しかも前記構成要素が引用例にも見当らないのにかかわらず、審決が引用例との同一性を判断するにあたつて、これを相異点として指摘し判断することもなく、また、前記構成要素の公知性について何ら検討することもせず、本件特定発明の「実質的内容は、巻煙草を装入する装入チヤンネルと巻煙草包装機械への移送チヤンネルとの間に配置されて、装入チヤンネルの装入能力と包装機械の加工能力とに応じて、巻煙草を貯蔵或いは送出できる装置に関し、これを単に電気的に制御するというものである」と認定したことからすると、審決は、本件特定発明における前記構成要素を看過したものとみるほかない。
以上のとおり、審決には、本件特定発明を構成する必須要件を看過し、すでに認定したごとき相異点を見落して、本件特定発明と引用例とを同一のものと判断した違法があるから、審決は、取消しを免れない。
この点における原告の主張は、理由がある。
三 よつて原告の本訴請求を認容することとする。
〔編註〕 本件における特許発明の要旨は左のとおりである。
(1) 物品、巻煙草及びその他を、セロフアンのごとき透明な箔状材料、箔その他を使用して自動的に包装する装置で、包装されるべき物品のための少くとも一台の装入チヤンネルと上記の物品を包装機まで移送するための一台の移送チヤンネルと、上記装入チヤンネルと上記移送チヤンネルの間に配置され、かつ包装機械の加工能力及び上記装入チヤンネルの装入能力の夫々に従つて、物品を貯蔵しそれを上記移送チヤンネルまで送出できる装置と、上記の夫々のチヤンネルを通しての装入の停止に関して上記の装置の作動条件をセツトするごとく、上記装置を制御するために、上記包装機械と上記装置とを連結する電気的に運転される制御装置とより成る自動包装装置。
(2) 上記の制御装置が複数箇のマイクロスイツチと、上記包装機械に連結された複数箇の包装段階感知装置と、上記装置に連結された複数箇の貯蔵感知装置とから成り、上記の包装段階感知装置の少くとも一部分は、上記装置を制御するためのスイツチを含む回路内に接点を有し、上記貯蔵感知装置の少くとも一部分は、上記装置への装入を制御するマイクロスイツチを含む回路内に接点を有する、本特許請求の範囲1に述べる自動包装装置。